読みもの ── 約7分
小学生でもわかる決算書の読み方
決算書の解説は、たいてい用語の定義から始まって挫折します。この記事は順番を逆にします。 まず「レモネード屋を開いた子ども」の物語をひとつ追いかけ、 その中に3枚の表が自然に登場するのを見てください。 物語が終わる頃には、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書が 「何のためにあるのか」が腹に落ちているはずです。
① お店を開く前 ── お金を集めて、姿を変える
ある子どもがレモネード屋を開くことにしました。手元にはお年玉の500円。足りない分は、お母さんから500円を 借りました。「もうかったら返す」という約束です。開店資金は合計1,000円。
この1,000円で、レモンと砂糖を200円分、コップと看板を300円分買いました。 残りは現金500円。ここで、いまの持ち物を1枚の表にしてみます。
右側はお金をどう集めたか(借りた500円と、自分の500円)。 左側は集めたお金が何に姿を変えたか(現金・材料・道具)。 同じ1,000円を2つの角度から見ているだけなので、左右の合計は必ず一致します。
この表を、大人の世界では貸借対照表(B/S)と呼びます。 答えている質問は「いま、何を持っていて、そのお金はどう集めた?」です。
考えてみてください:お母さんに500円を返したら、この表はどうなる?
左側の現金が500円減り、右側の「借りたお金」が消えます。表全体は小さくなりますが、 「じぶんのお金」は減りません。借金を返しても貧しくなるわけではない、 というのはB/Sで見るとよく分かります。
② お店の1日 ── いくらもうかった?
開店初日。1杯50円のレモネードが10杯売れて、売上は500円。 材料のレモンと砂糖(200円分)は使い切りました。
- 売上 500円お客さんから受け取る約束のお金ぜんぶ
- − 材料代 200円売るために使ってなくなったもの
- = もうけ 300円この1日の商売の成績
この引き算の表が損益計算書(P/L)です。質問は 「この期間で、いくらもうかった?」。 コップや看板は明日も使えるので、今日の費用には入れません (長く使う道具の扱いには細かいルールがありますが、今は気にしなくて大丈夫です)。
③ 事件 ── もうかったのに、お金がない
ところがこの日、10杯のうち8杯を買ったのは仲のいい友だちで、 「おこづかい日に払うね」というツケでした。 現金で受け取れたのは2杯分の100円だけ。
P/L上のもうけは300円。しかし財布に増えたお金は100円です。 明日も材料を200円分買うつもりなら、もうけの数字だけ見ていると 足元をすくわれます。もうけと、手元のお金の増減は、別ものなのです。
だから3枚目の表があります。財布のお金の出入りだけを記録するキャッシュフロー計算書(C/F)。質問は 「現金は、どこから来てどこへ消えた?」です。
会社の倒産の多くは、赤字ではなく「支払うお金が尽きたとき」に起きます。 利益が出ているのに現金が尽きて倒れることを黒字倒産と呼びますが、 その仕組みは、いまのレモネード屋とまったく同じです。
考えてみてください:ツケの400円は、B/Sのどこにいる?
左側の資産です。「あとでもらえる約束」も財産のうち。 大人の決算書ではこれを売掛金と呼びます。 売掛金ばかり増えて現金が増えない会社は、まさに③の状態です。
④ もうけはどこへ行く? ── 3枚の表はつながっている
1日目の夜、持ち物の表(B/S)を作り直してみます。 現金600円、ツケ400円、道具300円で合計1,300円。 右側は、借りたお金500円はそのまま、「じぶんのお金」が500円から800円に増えています。 増えた300円は、まさにP/Lのもうけです。
P/Lのもうけが、B/Sの「じぶんのお金」に積み上がる。 面積図で見ると、「じぶんのお金」の割合が50%から62%に育ちました。 毎日もうけを積み上げれば、借金に頼らない、つぶれにくいお店になっていく── これが財務三表のつながりの正体で、 会社の決算書でも起きていることは同じです。
⑤ 大人の決算書に翻訳する
最後に、レモネード屋の言葉を決算書の言葉に置き換えます。 この対応さえ頭にあれば、本物の決算書も「大きなレモネード屋」として読めます。
- じぶんのお金(お年玉+もうけの積み上げ)── 純資産
- お母さんから借りたお金 ── 負債
- 現金・材料・道具・ツケ ── 資産
- ツケ(あとでもらえる約束)── 売掛金
- 1日のもうけ ── 利益
- 財布のお金の出入り ── キャッシュフロー
3枚の表は、それぞれ別の質問に答えるための道具でした。 B/Sは「いま何を持っている?」、P/Lは「いくらもうかった?」、 C/Fは「現金はどう動いた?」。どれか1枚だけでは、 レモネード屋の本当の姿は見えません。
本記事は学習用の入門解説です。実際の会計処理を簡略化した表現を含みます。